はじめに
皆さんは「きょうだい児」という言葉を聞いたことがありますか?
もしかしたら、SNS等で話題になっているのを見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
ヤングケアラーの中でも兄弟姉妹をケアを行っている「きょうだい児」の割合は多いことがわかっています。
今回は「きょうだい児」という言葉を初めて聞いた方でもわかるように、1からわかりやすく解説していきます。
「きょうだい児」とは?
「きょうだい児(きょうだい)」とは“疾患・障がいのある人の兄弟姉妹”のことです。
年齢は特に定められていません。児童期だけでなく成人後の期間も含めて使用されている場合もあります。
「きょうだい児」は、親子関係とは違う”きょうだい”としての関係の中で、多くの困難を抱えています。
きょうだい児はどのくらいいるのか
きょうだい児を対象とした国の実態調査は進んでおらず、その実態は詳しく明らかになっていません。しかし、令和2年度 ヤングケアラーの実態に関する調査研究 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)では、ケアの対象者として「きょうだい」と回答した割合が最も多くなっています。(ケアをしている理由として「幼いきょうだいがいる」と回答したものを含む)
また、令和6年版障害者白書によると、日本の障がい者の数(身体・知的障がい児を含む)は推計でおよそ1160万人であることが報告されています。令和4年版障害者白書の報告では、およそ965万人であったことから、その数は年々増えていることがわかります。障がい者数の増加に合わせて、きょうだい児である子どもたちも増加していると考えられます。
きょうだい児の現状
2007年に行われた財団法人国際障害者年記念ナイスハート基金の調査によると、疾患・障がいのある兄弟姉妹の続柄として多く割合を占めているのは弟(34.2%)、続いて兄(24.5%)妹(25.1%)姉(15.1%)となっています。
また、兄弟姉妹が抱える疾患・障がいついては、知的障がい(87.3%)肢体不自由(14.9%)発達障がい(6.4%)精神障がい(4.0%)の順に多い結果となっています。こうした障がいが発生した時期は「先天性」であると回答した割合が45%を占めていることから、きょうだい児は幼少期からケアを担っているケースが多いと推察されます。
きょうだい児の特徴
ヤングケアラーの中に位置付けられることが多いきょうだい児ですが、他のヤングケアラーとは少し異なる特徴があります。例を挙げてみていきましょう。
- ケアの対象者が同年代であり、家でも学校でも同じ空間にいること
他のヤングケアラーと違い、自宅のみならず学校でも同じ空間にいることが想定されます。そのため、学校でも「家族」としての対応を求められ、周りの子どもたちと同じように子どもらしく過ごすことが難しい場合があります。学校に所属する大人がきょうだい児にケアの役割を期待すれば、学校でも対応を行わなければならないという状況に置かれることがあります。
- 家族の期待
例えば、家族がきょうだい児に「障がいのある兄弟姉妹の支えになってほしい」とケアの役割を期待したり、疾患・障害のある兄弟姉妹には達成できない目標(進学や就職)を押し付けてしまう形になる場合があります。きょうだい児は、家族の負担にならないように自分の思いを我慢することもあるかもしれません。また、周りの大人と同じ「ケアをする立場」となるために、子どもでありながら家族の相談相手となり、結果的に家族の感情面のケアを担っているケースもあります。
- その後の人生
誰しもが経験する、進学・結婚・出産・介護などのライフイベントに「疾患・障がいがある兄弟姉妹がいる」という事実が影響する場合があります。例えば、結婚の際に相手の家族に疾患・障がいのある兄弟姉妹への理解が得られるか葛藤したり、親よりも長く過ごす兄弟姉妹との付き合いや介護についての悩み等があります。
きょうだい児はこのような環境の中で、子どもながらにケアに対する責任感や使命感を背負ったり、疾患・障がいのある兄妹姉妹に対する羞恥心や嫉妬心等、家族の誰にも言えない気持ちを抱えるかもしれません。
きょうだい児はどんな困難を抱えているのか
きょうだいに共通する特有の悩みとして、以下のようなものが挙げられています。
Sibkotoホームページより引用 https://sibkoto.org/about-sibling
- 親が障害のある兄弟姉妹のケアに忙しく、孤独感を抱きやすい
- 兄弟姉妹の発作や命の危険がある様子などを間近で見て、辛いと感じる。
- えらい子・できる子であることを期待される。
- 子どもの頃から、自分のことよりも障害のある兄弟姉妹のケアを優先する生活を送る。ヤングケアラーとなる場合も。
- 障害者やその家族に対する世間の偏見に悩まされる。
- 障害のある兄弟姉妹から、日常的に、暴力や嫌がらせなどを受けるきょうだいがいる。
- 進路・結婚・出産を考えるうえで障壁となることがある。
- 「生涯にわたり、障害のある兄弟姉妹の面倒を見なければならない」というプレッシャーがある。
もちろん、全てのきょうだい児がこうした悩みを抱えるわけではありません。なかにはあまり辛い経験をしてこなかったきょうだい児もいます。周囲の大人は、きょうだい児が抱える問題を「統一性があるもの」して捉えず、あらゆる可能性を考えて、1人ひとりの声をきく必要があります。
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周りの大人ができること
このように、きょうだい児は「ヤングケアラー」というジャンルの中では語りきれない、様々な悩みや困難に直面している可能性があります。
きょうだい児が生きやすい社会をつくっていくためには、周りの大人のサポートが必要です。
たとえば、
- 疾患・障がいの兄弟姉妹とは別にきょうだい児と一緒に過ごす時間をつくる
- 疾患・障がいについてわかりやすく説明する
- きょうだい児の話を受け止める
等が挙げられます。
しかし、周りの大人が「家族なのだから支え合うべき」「兄弟姉妹なのだから仲良くするべき」「障がいや病気になったのはしょうがないことなんだから、相手に対してネガティブな思いを持ってはいけない」といった先入観をもつと、子どもたちは心を閉ざしてしまうかもしれません。
大切なのは、先入観を取り払って子ども1人ひとりの思いに向き合うこと。そして、子どもたちに「どんな気持ちを持っていても大丈夫」と伝えることです。
そうすることできょうだい児がもっと生きやすい社会に繋がっていくのではないでしょうか。
終わりに
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