幼少期から家族を支える日々。突然、脳出血で倒れてしまった母親の介護と自分の人生の狭間で感じる葛藤(後編)

前編では、幼少期から様々な困難に直面しながらも家族を支え、日々を生き抜いてきた彼女の姿を追った。
インタビュー後編では、母親の介護生活に抱く思いや葛藤、そして困難を乗り越えながら自分の人生を歩もうとしている彼女の姿を取材した。

突然、病に倒れた母親

ーTさんの国家試験の直前にお母さんが倒れてしまったんですね

はい。国家試験を控えた1月のことでした。なんの前触れもなく、本当に突然のことでした。

倒れた日は母がパートの仕事に行く予定だったんですが、家を出る前から「眩暈がする」「ちょっと頭痛が…」と言っていたんです。心配になった私は「帰ってきたら病院に行こう」という会話をしました。その後、母親は勤め先に向かいましたが、勤め先に着いた直後に更衣室で倒れてしまい、そのまま救急車で病院に運ばれました。

その時私は家にいたのですが、救急隊員から電話がかかってきて弟と一緒に急いで病院に向かいました。

Tさんの社会福祉士の国家試験や大学卒業を目前にした出来事だった

ー病院についてからのことを話せる範囲でお話頂けますか?

私と弟が病院についたのも束の間、緊急手術が必要だと言われ手術の同意書にサインを求められました。母親は脳出血を起こしていたんです。母親の病状は重く、手術をしても意識が戻るかどうかわからないこと、意識が戻ったとしても障害がどのくらい残るのかわからないこと、最悪の場合もあり得ることなどあらゆる可能性を説明されました。

結局私が手術の同意書にサインをすることになったのですが、私と弟がまだ学生だったこともあり、病院の先生や看護師さんから「2人ともまだ学生でしょう」「子どもだから判断できないんじゃないか」というニュアンスのことを言われたのを覚えています。

その後、母親は緊急手術を経てICUに入りました。1週間ほどして一般病棟に移れる状態にはなったのですが、意識は戻らないままでした。私は母親の意識が戻るまで、毎日病院に通い続けました。

ーその後、お母さんやTさんの生活はどうなったのでしょうか

2週間ほどして母親の意識は戻りましたが、目を覚ました母親はほとんど記憶がなく、一部記憶があっても混在していて私のこともわからない状態でした。

そんな母親の状態を見るのも辛かったですが「これから自分が就職して生活が楽になるだろう」と思っていた矢先に母親が突然生活からいなくなってしまったので、「今日から私1人で全部やらなければいけない」という重圧も感じていました。その頃は自分の就活活動のためにアルバイトを辞めていた時期でもあったので、「明日からどうやって生活していこう」という状況でした。

周りから差し伸べられない手。誰かに助けを求める発想もなかった

ー大変な状況だったと思いますが、そのことを周りの大人に相談することはありましたか?

母の転院先を決める関係で、メディカルソーシャルワーカーさんと話す機会がありました。

その時にメディカルソーシャルワーカーさんが私の生活について聞いてくれたんですが「あ、そういえば生活はどう?」と母親の転院先の話のついでに聞かれた感じでした(笑)。でも、家のことを話したのはこの時が初めてだったかもしれません。

ー自分から相談したわけではなかったんですね

そうですね。当時は誰かに相談しようという発想がありませんでした。
それよりとにかく不安でいっぱいで、「自分で何とかしよう」「自分がやるしかない」という思考が強かったのかもしれません。

ーその後の生活はどのように変化していったんでしょうか

メディカルソーシャルワーカーさんと話した結果”私が就職するまでは生活保護を受けながら暮らす”という方針になったので、私は急いで就職先を探しました。

そこで私が頼ったのは大学の先生でした。事情を話して「今すぐ働けるところはないか」と相談しに行ったんです。大学の先生に家の事情を話したのもこの時が初めてでした。その結果、今も携わっている介護系の就職先を紹介してもらい就職することができました。その時は何とか生活が繋がったような感じがしました。

私が就職してからは、家事をしつつ仕事が休みの日には病院にお見舞いにいき、母親の洗濯物を持って帰ってまた届けにいく…という生活でした。弟はいましたが、家事はほとんど私でしたね。今振り返れば、弟は当時18~19歳。自分のご飯くらいは自分で作れたと思うのですが、やっぱりこの時も「自分がやらなきゃ」と思ってしまっていました。しんどかったですね。

ーお母さんが退院する時の手続きも全てTさんがされていたんですか?

そうです。病院で介護認定調査が入ったことがありました。要介護2か3だった思います。でも、当時私はそれがなんのことがわからなかったんです。ネットで調べてみると「地域包括支援センター」という所が出てきたので、何もわからないままそこに向かいました。そこでケアマネさんを紹介してもらって、ケアプランをたててもらって‥という感じで支援にたどり着いたんです。

行き当たりばったりな感じでしたね。「介護認定が出たけど次は何をしたらいいんだろう」という感じでした。

ー病院のスタッフから手続きの案内等はなかったんでしょうか?

なかったです。私も「誰かが教えてくれるのかな」と思っていました。でも、何もなかったので手続きについて病院の人に聞いてみたんです。そうしたら「自分で調べてやってください」と言われました…。結局、自分で調べて行きましたね。母親はその後、予定通りリハビリ病院に半年間入院した後、家に戻ってきました。

周りのサポートもなく、自分で調べるしかなかったTさん。自分がどんな支援が受けられるのかもわからなかった

自宅での介護生活がスタート

ーお母さんが退院してからの生活はどうでしたか

母親は脳出血で右半身に麻痺と高次脳機能障害(理解や会話の難しさ)が残った状態でしたが、足に装具をつけて杖歩行ができ、手すりなどがあれば身の回りのことは自分でできる状態にまで回復していました。

ある程度は母親1人でできる状態だったので、ずっと誰かが傍につかなければならない訳ではなかったのですが…4年前ほど前に母親が自宅で転倒し、左手首を骨折した時は全てに介助が必要だったので本当に大変でした。右手の麻痺もあって両手が使えず、歩くことも、食べることも1人でできない状態だったんです。家でみるって本当に大変なんだと思いました。介護サービスも増やしてもらっていましたが、私自身フルで働いていたので、気が狂いそうでした。仕事から帰ってからは、座る暇もないほど大変でした。

弟には「家のことで仕事の制限をさせたくない」「好きなことをして生きてほしい」という思いがあり、普段は私から「家のことを手伝ってほしい」と言わないのですが、さすがにこの時ばかりは手伝ってもらっていました。

ーその後、そして現在の生活はいかがですか?

その後は母親の骨折も治ったため、生活自体も安定してきたタイミングで社会福祉士の資格を取りなおす準備を進め、仕事量を調整して勉強し無事に合格することができました。

今は介護系の仕事を継続しつつ、訪問リハビリやヘルパーさんの入浴介助を利用しながら、母親の介護や家事を担っています。母親の介護といっても身体介護はあまりないのですが、高次脳機能障害が残っているのでその部分の介助をしています。言葉はある程度理解できるのですが、複雑な内容を理解したり、言葉を発することが難しいことがあるんです。それもあって、各種契約や手続き、お金の管理等は私が行っています。また通院の際も、病院の距離が遠いと体力的に歩いていくのが難しかったり、診察時も先生の説明がうまく理解できないので私が付き添うことが多いですね。

これからの人生

ーTさん自身の今後の未来像を教えてください

「私、介護いつ終わるんだろう」「このままだと私の人生って…」という未来への不安があります。でも、私の人生と家のことはやっぱり切り離せないので…自分の人生を考えながら、うまくやっていけたらいいなとは思います。

ーTさん自身が今後やりたいことはありますか?

社会福祉士の資格をとれたので、それを生かしていきたいと思っています。最初はひとり親家庭を支援したいと思っていたのですが、自分の経験を通じて在宅介護の大変さを実感したり、ヤングケアラーという言葉の存在を知り、今は若者・子どもの支援に携わりたいと思っています。

ー今のヤングケアラーの子どもたちにメッセージをお願いします

自分にとって介護が日常化していると、困っているという自覚がないので誰かに相談しようと思わないかもしれません。でももし、少しでも不安に思っていることや相談したいと思うことがあれば、勇気を出して相談してみてもいいのかなと思います。話すことって勇気がいることだと思うんですが、周りの人に話ができたら何か変わることもあるのかなと思います。

家族のことを優先しすぎて、自分のことが後回しにになっている子が多いと思うのですが、自分のことも考えてあげてほしいです。

家族を支える事を義務だと思わず、選択肢のひとつと捉えてみるのも良いのかなと思います。

家族のことも自分の人生も考えながらうまくやっていきたい。少しずつ歩み始めるTさん

ー貴重なお話ありがとうございました

終わりに

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この記事を書いた人

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