「両親の喧嘩や暴力は当たり前の日常」機能不全家族で育ったKさんが直面した両親の介護【後編】

幼少期から壮絶な家庭環境の中で日々を過ごしてきたKさん。中学2年生の時に父親が脳出血で倒れ、介護生活が始まった。父親の突然の病に彼女を何を思ったのか。

始まった父親の介護生活

ー暴力を振るっていたお父さんの介護をするということに抵抗はありませんでしたか?

私は「家族=大切な存在」のように思ったことがなくて。なので介護も「同居してお金を出してもらっている」「私を育てる立場の人だから介護しなくちゃいけない」という義務感だけでやってましたね。父親のためとか、大切だから介護しようと思ったことはありません。やらなきゃいけないことだからやっているという感じでした。かといって、今まで暴力を振るわれてきたから「なんでこんなやつの介護をしなくちゃいけないんだ」という気持ちもなかったです。

反面、母親は父親に依存しているような状態の中で突然こんなことになったので、当時は母親がメインで父親の介護をしていたのですが、ずっと「辛い」と泣いていました。

ー中学3年生というと受験生ですよね。受験勉強も重なって大変な状況だったと思います。

今思うとめちゃくちゃ辛かったと思います。でも、当時は「辛い」と気付いてなかったですし「辛い」と言ってられない状況でした。自分の人生に支障が出るかもしれない、生活が変わってしまった、というストレスは抱えていたと思います。それでも、介護をやらざるを得ない状況だったので、当時は自分の気持ちに目をつむっていたのかもしれません。受験勉強については、介護をしながら受験勉強は絶対できないと思っていたので、志望校を変更して推薦でいけるところを目指しました。

ー早い段階から先を見据えられていたんですね

そこは私の性格的な部分もあって、その時の状況に応じて自分の方向性を変えながら、環境に上手く順応していたんだと思います。一方で、周りの大人はそんな私を見て「この家はお母さんよりも娘さんに話した方が早い」ということを学んでしまったようで…。ケアマネジャーとのやり取りや、父親のリハビリの方針などの決定権を中学3年生の私に委ねてきたんです。今振り返ると本来なら絶対私がやるべきことじゃないと思いますが…。この年には私を助けてくれていた部活の顧問の先生が異動でいなくなってしまったのもあって、私は余計に周りの大人を頼れない状況でした。

誰にも頼れないまま、大人と同じ責任を担っていた

介護疲れによる母親の異変

ー高校生の頃はいかがでしたか?

車いすでしか移動できなかった父親も、この頃には自宅内であればゆっくりと4点杖で歩けるまでに回復していました。その代わり、母親のパニック障害はひどくなっていました。一番ひどかったのは私が高校1~2年生の頃だったと思います。この頃にはどっちかというと父親の介護というより、母親の見守りがメインになっていました。なので私は高校入学後、部活は続けられないと思い帰宅部に近い文化部に入部しました。

ー見守りが必要になるほど、お母さんの症状は不安定だったんですね

そうですね。特に「まぶしい」と訴えて、動けなくなってしまうことがよくありました。例えば、学校に送ってもらう車の中で「まぶしい」とパニックを起こして、路肩に止めてそのまま3時間ほど車内でうずくまってしまう、といったことがありましたね。母親は買い物や通院ができなくなり、その上、電車や車にも乗れなかったので、私がタクシーを手配して通院させたりしていました。それでも母親は家のことをやってくれていたので、私が担っていたのは対外的な部分だけでした。

運転中、母親のパニック症状は突然起こった

母親は私にかなり依存しているような状態でした。私が東京の大学へ進学したいと話した時は母親がヒステリーを起こして、止められてしまいました。「もう高校卒業後は働こう」と進学を諦めかけていた時、私を助けてくれたのが高校の部活の顧問の先生でした。先生は私がやりたいことが学べて、なおかつ実家から通える範囲の大学を探してくれたんです。そのおかげで、無事に進学することができました。中学に続けて、高校でも部活の顧問の先生に恵まれてとても幸運だったと思います。

自分と向き合うきっかけになった大学時代

ー大学時代はいかがでしたか?
大学進学後、私はフロイト哲学を専攻しました。ゼミでは自分の内面と向き合い、それを発表するということが主な活動でした。ゼミのメンバーには複雑な家庭状況で育ってきた人が多く、なかには私以上にヘビーな経験をしている人もいました。そんな中で、おのずと自分の状況を丸裸にして話さなければいけない状況に置かれた私は「みんな大なり小なり何か苦悩を抱えているんだ」ということに気付いたんです。

仲間と出会い、外に目を向けられるようになった

それまでは「自分の家庭は特殊だ」と引け目を感じていて、ある意味悲劇の主人公、自分中心みたいな捉え方をしていました。でも、大学生活を通じて「自分は特別ではないんだ」ということに気付き、外にも目を向けられるようになりました。大学生活はとても充実していました。この頃は父親も穏やかで笑顔でいることが多く、家庭環境も平和になっていきました。

その後、就職のタイミングで私が家を出ることになったのですが、母親の依存が強く、母親から離れるのがとても大変で、就職してから1年ほどは最低限の報告以外は母親と連絡をとらないようにしていました。すると、親も親で外に目を向けられるようになってきたのか、その時期に夫婦で旅行に行ったりしていました。この後、父親の癌が発覚するまでの数年間だけは、両親にとってもとても穏やかな時間だったと思います。

ーお父さんの癌が発覚したんですね

はい。私が20代後半の頃でした。癌が見つかった時にはステージ4で、半年後に亡くなりました。1人になった母親はそれから身体がかなり弱ってしまい、今は介護が必要な状態になっています。パニック症状もひどくなっていて、ご近所に迷惑がかかることもあります。つい最近も母親のことで病院から電話がかかってきて…困ったなという感じです。母親の介護については、父親の介護経験から、私が直接的に介護するというよりも福祉サービスを活用して関わるようにしています。

「ヤングケアラーは可哀想な存在ではない」Kさんの思い

ー現在のご活動について教えていただけますか?

5年ほど前にCMでヤングケアラーという言葉に出会い「これは私のことじゃないか」「私の状況にも名前がついていたんだ、支援が必要な状況だったんだ」と感じました。元々子ども支援に興味があった私は、何かサポートができないかと居住地のヤングケアラー支援を調べ始めました。現在は、あるNPO法人のピアサポーターとして活動しています。具体的には、座談会や小中高の居場所支援、放課後の子どもたちとの交流会等で潜在的なヤングケアラーを見つけ支援する、といった活動を行っています。

ーKさんの今後の展望を教えてください

「ヤングケアラー」という言葉の認知度が上がっている一方で、最近は「ヤングケアラーは可哀想な存在で、社会がこういう子どもたちをなくさないといけない」と過剰にいう世間の目がヤングケアラー家庭に向けられるフェーズに入っているのではないかと思います。私個人としても、自分のヤングケアラーの経験が「悲劇だったし、可哀想で辛かったんです」というのを伝えたいわけではなく、その中で得た知識もあったり…ケアはもうやりたくないですが、あの当時の自分を否定したくないという複雑な気持ちを持っています。「ヤングケアラー=可哀想な存在・やりたいことが何もできない人たち」というステレオタイプで見るのではなく、ヤングケアラーでありながらも、自分のやりたいことがやれたり、正しく福祉の手を使える…そういう場が増えたらいいなと思って活動しています。

ー最後にヤングケアラーの子どもたちや世間の方にメッセージをお願いします

何かちょっとでもひっかかることがあれば、勇気をもって調べてみたり、アクションを起こしてみてほしいです。手を差し伸べてくれる人が学校や親以外にいると思います。ちょっとの勇気で自分がすごく楽になれるかもしれません。抱え込まずに動いてみてほしいと思います。ただ、「無理はしないでね」と一番に伝えたいです。

そして、社会を含め周りの大人の人たちには「ヤングケアラーは可哀想な子」という目を向けてほしくないなと思います。確かに具体的な支援や助けの手は必要ですが、ここにくるまで子ども達がさまざまな事情の中、自分がやれることを考え行動してきているのを認めてあげること、そしてそれぞれに夢見ている未来があるということを忘れず、ひとりひとりに寄り添う支援のかたちを一緒に考えていただきたいと思います。

ー貴重なお話、ありがとうございました。

終わりに

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株式会社Empathy4uでは、ヤングケアラー実態調査、SNS相談、オンラインサロン、支援者向け研修などヤングケアラー支援を積極的に行っています。お問い合わせは会社HPからご連絡ください

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この記事を書いた人

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